釈然としないまま、10日間が過ぎた。

連絡を取ろうとはしていたが、お互い忙しかったこともあり、なかなか彼女にキスマークの事を聞き出せないでいた。

いつの頃からか私は、彼女をまるで腫れ物にでも触れるかのように接していた。

あまりにも彼女の半生が過酷だったからだ。

そして10月中旬のある日、私は彼女にLINEをすると、「アキラ つかれた」と返事がきた。

いつもと違う。

ただならぬ雰囲気を感じた私は、彼女の気持ちを理解しようと慎重にLINEを送った。

何回かやり取りを繰り返すうちに。

彼女の話す内容が、だんだん辻褄(つじつま)が合わなくなってくるのを私は感じた。

気がつけば、しだいに荒(すさ)んだ文面が、スマホのスクリーンを埋め始めた。

今まで見た事もない、やぶから棒な彼女の態度。

普段のおとなしい彼女の印象からはほど遠い、もう一つの貌(かお)。

得体の知れない彼女の心の闇が、いきなり赤い舌を出したかのようだった。

違和感に戸惑いつつも私は、根気よく彼女とLINEを続けた。

そして遂に彼女は、なかばヒステリー気味に浮気をしていたことを打ち明けた。

頭をこん棒で ぶん殴られたような衝撃が疾(はし)る。

相手は元彼だった。

2年前に出会って、半年前に別れた妻子持ち。

出張で東北から四国に単身赴任し、今は違う営業所へ異動になったはずだった。

まだ付き合っていたとは。

たしか喧嘩別れをしたはずだ。

「いつふたりで会っていたのか?」と彼女に聞くと。

「仕事で香川へ来た時に逢っていた」と。

つまり私は二股をかけられていた。

呆然とした。

言葉にならない。

どす黒い怒りで腹わたが煮えた。

私は元彼の携帯の電話番号を聞くと、すぐに電話をかけた。

男が出た。

今しがた、彼女とケンカ別れをしたばかりだという元彼は、逆上していた。

売り言葉に買い言葉だった。

話になるはずもなく電話を切った。

次に私は、元彼の住所を聞くために、ふたたび彼女に電話をした。

彼女が出た。

そのとき私はふと、彼女にヒステリーの理由をたずねた。

すると彼女は、ぶっきら棒にこう言った。

「さっき元彼に、私以外にも他に女を作った、と言われたので喧嘩になって別れた」のだと。

つまり痴話喧嘩のとばっちりだった。

呆れた。

そしてしかも、相手は私のことを知っているのだとも。

裏切られた。

「私が好きなのはあの人よ」

最悪だった。

心が折れた。

もういいよ。

匙(さじ)を投げた。

それから私は、別れ話を切り出した。

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この記事を書いた人

村上 孝徳

門認定アドバイザー 有限会社 鳥彰勤務
24歳で実家である鶏肉店を継ぐために帰省。
その後、2度の離婚を繰り返し、何度か女性とおつき合いを繰り返したが、すべて上手くいかなかった。
摂食障害になり、今後の生き方を見直そうと決意する。
パートナーシップについて向き合ううちに、女性心理について探求していく中で、古来中国の叡智である「門(もん)」に出会う。
その後も心について学ぶ中で、満たされている自分を実感。
現在は、鶏肉店を経営しながら、門認定アドバイザーとして活躍中。
生き辛さを抱えたお母さんの気持ちに寄り添い、ホッとする安心感と自分軸を取り戻すヒントをお伝えしています。

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