戯れの浜辺(たわむれのはまべ)00 沙弥島(しゃみじま)ナカンダ浜

沙弥島(しゃみじま)ナカンダ浜

巨大な穴が、目の前に立ちふさがる

石川県金沢市。

21世紀美術館 アニッシュ・カプーア作。

人類の起源

漆黒の闇が、心の穴を穿(うが)つように宙に浮かぶ。

穴の存在は、想像をはるかに超えて。

見る者の心をつかんで離さない。

壁に浮かんだ穴は。

あたかもカゲロウのように空間をただよう。

そっと覗いてみたとしても。

奥行きを知りえることもなく。

闇はどこまでもつづくかのようでいて。

逆に、心の穴を見透かされているかのようだった。

それはまるで。

あなたがくれたやさしさのようであり。

絶望という名の、底なし沼の入り口だった。

四年前

ある女性と出会い、恋に落ちた。

ありふれた出会いと。

ありふれたセックスのはずだった。

これまでは、だ。

SNSでの、リア充な生活を発信している時の彼女とは。

およそかけ離れた裏の貌(かお)

抱えきれない悲しみを引きずった女だった。

瀬戸大橋のたもとの浜辺で。

デートを重ねるうちに。

ポツリポツリと、雨だれのように生い立ちを聞かされた。

両腕に刻まれた、数え切れないアームカットの痕(あと)

得体の知れない薄気味悪さを、背中にはりつかせていた。

これまでも。

さまざまな女性の、身の上話を聞いてはいたが。

かける言葉がなかった。

沈黙だけが過ぎていく。

最初に言ってくれたなら。

とうの昔に逃げていた。

もう遅い。

ナカンダ浜の木の下で。

夕闇が二人を包み込む。

どちらからともなく唇を重ねると。

女の腕がさりげなく私の首にまわる。

長い夜の始まりだった。

あらがえるはずもなかった。

午前4時

情事のあと。

足がすくむような、女の過去を振り払うように。

家路へと急ぐ帰り道。

いくら暗闇に目を凝らしてみても。

答えは出ない。

先送りにしてきたあざとさは。

身をもって代償を、あがなうことになるとも知らずに。

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