以前から、おたがいの家を行き来していた私たちは、よく会話のなかでも家族の話をしていた。

ふだんの彼女の話しぶりから、仲のよい家族だとずっと思っていた。

そんな中、彼女はポツリポツリと家庭のことを話し始めた。

じつは不仲なんだと。

とりわけ母親とは、確執があるという。

母親にまつわるこれまでのトラブルの数々を、冬の到来をつげる北風が吹きすさぶ、黒いアスファルトの駐車場で黙って聞いた。

彼女の濡れた頬を、白銀灯が冷たく照らしているのに気がついたのは、しばらくして北風が落ち着いてきたあとだった。

うちも似たようなものだった。

いつも酔うと、決まって暴れる酒乱の親父と、身を粉にして働く母親のもとで育てられた。

飲んで暴れて、母親が殴られるのは日常茶飯事だった。

お袋を階段から突き飛ばして、家にある金をわしづかみにして賭場へ向かう親父。

なにが原因であれほど暴れ狂うのか、子供のころの私には理解できなかった。

放蕩無頼(ほうとうぶらい)を繰り返す親父に、愛想を尽かした祖父母は、親父を見限って父方の実家で育てられた私と腹違いの兄と養子縁組をした。

そして家の財産を、跡取りであった親父を飛び越してすべて兄に譲ったのでヤケになったのだ、と理解できたのは。

親父がアル中で死んだずっと後のことだった。

そのあたりの経緯(いきさつ)を、私は彼女に話した。

11月の終わり。

夜が更けて、風が冷たい。

彼女はカシミアのショールで肩をおおった。

私は。

「ずっと、そばにいるから大丈夫だよ」と、彼女を励ますので精一杯だった。

「どういう意味?」と彼女。

「ん?」

言葉に詰まった。

「プロポーズかな?」

そう。

私はこの時、彼女にプロポーズをしていた。

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この記事を書いた人

村上 孝徳

門認定アドバイザー 有限会社 鳥彰勤務
24歳で実家である鶏肉店を継ぐために帰省。
その後、2度の離婚を繰り返し、何度か女性とおつき合いを繰り返したが、すべて上手くいかなかった。
摂食障害になり、今後の生き方を見直そうと決意する。
パートナーシップについて向き合ううちに、女性心理について探求していく中で、古来中国の叡智である「門(もん)」に出会う。
その後も心について学ぶ中で、満たされている自分を実感。
現在は、鶏肉店を経営しながら、門認定アドバイザーとして活躍中。
生き辛さを抱えたお母さんの気持ちに寄り添い、ホッとする安心感と自分軸を取り戻すヒントをお伝えしています。

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