「ホット ショート アメリカーノ、マグで」
私はレジでオーダーを告げると、椅子に腰かけた。
彼女が現れるのを待つ。
郊外にあるシアトル系コーヒーのチェーン店。
彼女のお気に入りの店だ。
ほどなくして。
店の扉がひらいた。
早い足取り。
ブルックスブラザーズのフレアースカートが揺れる。
真っ直ぐこちらへ向かって歩いてくる。
長い足をちらりと覗かせて彼女は椅子に座った。
ひと月振りだった。
テーブルを挟んで束の間、私たちは見つめ合った。
そして。
私はまた、いつものように話し始めた。
何ごとも無かったかのように。
たまたまひと月、忙しくて会えなかっただけかのように、留めどなく話しつづけた。
それはまるで、2人の空白の時間を埋めるかのようだった。
ひと通り私が話し終えると、彼女も兄妹のことを話し始めた。
いつもの事だった。
歳の離れたお兄さんとは本当に仲がよかった。
1人っ子で育った私は、いつも彼女の兄妹の話を聞くと、羨ましかったものだ。
とりわけ、お兄さんのところの甥っ子は可愛くて仕方がないらしい。
そんな取りとめもないことを話す時間もあっという間に過ぎ、閉店30分前となって私たちは店を出た。
駐車場で、私は思わず彼女に聞いた。
「今、好きな人はいるの?」かと。
「今はいない」
彼女のその言葉を聞いた時、おもわず私はこう話しかけていた。
「もう一度、やり直さないか」と。
それには答えず、彼女は私から視線を外すと、ぽつりぽつりと家族のことを話し始めた。