言ってしまった。
蓋(ふた)をしていた本当の想い。
そのとき私は、これまでずっと二人の未来から目を背けていたことに気がついた。
どこかで彼女とは、ここから先は無理だろうと勝手にあきらめていた。
漆黒のアスファルトを照らす街灯が揺れている。
冷たさを増した風が、冬の訪れを告げていた。
寒さが耐えられなくなった私は、「車の中で話そう」と彼女をうながした。
うなずいた彼女を車に乗せて、いつもの瀬戸大橋のところまで海岸線を走った。
沙弥島(しゃみじま)にほど近い、巨大な橋げたのたもとにある駐車場で車を停めた。
そこで私は、二人でこれからのことを話した。
仕事のことや住まい、そしてお金のこと。
ひとつひとつ、ゆっくりと言葉を選びながら。
振り返ってみれば、私たちは今まで二人でこういう話をしたことは無かった。
いつもどこか浮世離れしていた。
地に足が着いていないような、
ふわふわとした関係。
彼女がそういう関係を望んでいると感じていたので、私もそれに合わせていたつもりでいたが、そうでは無かった。
彼女は待ってくれていた。
いつかきっと、私の方から話してくれるだろうと。
私は注意深く、言葉を選びながら、未来のさまざまなことを彼女に話しかけた。
彼女は根気よく私の話を聞いてくれた。
これからの事をひと通り話し終えると、私は来月に二人で旅行に行かないか と誘ってみた。
彼女は結局それには答えず、上手くはぐらかされた。
沈黙が心地よかった。
彼女を家まで送る車内の中、カーステレオから流れる吉田美奈子のバラードが冴える。
私たちは、言いたくても言えなかった気持ちが通い合った気がした。
寄せては返す波のように。
沈黙と戯れていた。