夏が過ぎた。
私たちは それからも週末のデートを楽しんでいた。
食事、ドライブ、サイクリング、カフェ巡り、美術館、温泉旅行など。
親が留守の間に、お互いの家に行き来したりしながら、甘い時間を過ごしていた。
そして10月上旬の風が涼しくなりかけた頃、私たちは彼女と彼女の友達の3人で、とある島へ出かけた。
瀬戸内海に浮かぶ、7つの島を舞台にした芸術祭に指定されている島。
英語の得意な彼女は、ヨーロッパにホームステイしていた経験を活かして、3年に1度開催されているイベントのボランティアをしていた。
その時に、一緒に活動しているスタッフを私に紹介してくれたのだ。
素直に嬉しかった。
彼女との距離が、また一段と近づいた気がした。
晴れた日の朝、私たちは港で待ち合わせて ひなびた連絡船に乗った。
穏やかな瀬戸内の海を船が進む。
ほどなくして島に着いた。
伊吹島(いぶきじま)という島だった。
島民のほとんどが漁業で生計を立てている島。
島のあちらこちらに常設されているモニュメントを辿りながら島を散策した。
ちょうど秋祭りの最中だったので、島の男達が太鼓台(たいこだい)と呼ばれる山車(だ
し)を使って島内をところ狭しと練り歩く。
坂道の途中にある神社に参拝して、しばらくの間 獅子舞を見物した。
祭りを満喫した私たちは、帰りの船に乗り、島を後にした。
それから再び港へ上がり、昼に何も食べていなかったので、近くにあるお好み焼き屋へ3人で入った。
取りとめの無い会話を楽しんでいた時、私はある事に気がついた。
彼女の首筋にキスマーク。
控え目に見ても10cm以上あった。
無論、私では無い。
彼女の友達の手前、箸が止まりそうになる衝動をなんとか抑え、平静を装いながら食事をするので精一杯だった。
動転して、すっかり味の分からなくなったお好み焼き。
食べ終えて店を出ると、彼女は突然 体調不良を訴えた。
問いただす暇もなく踵(きびす)を返し、彼女はさっさと友達と帰ってしまった。
独り残されて、茫然とした私は、仕方なく車のハンドルを握った。
混乱した頭を整理しようとしてみたが、キスマークのことで頭が一杯で、何も考えられない。
「誰だ?」
それでもまだ、私は彼女を信じていた。