それから私たちは、週に二回のペースで逢うことを重ねた。
いつもの臨海公園で落ち合い、カフェや沙弥島(しゃみじま)と呼ばれる浜辺でひとしきり戯れたあと、ホテルへ流れる。
そんなデートが、いつの頃からか私たちの定番のコースになった。
ハグをかわしてシャワーのあと、白いシーツの海に潜り込む。
舌を絡ませながらデリケートゾーンに指を這わせると、私の欲望がしだいに頭をもたげ始めた。
何度か肌を重ねて、なじみ始めた体が、私の色に染まりはじめたころ。
彼女の吐息を頬に感じながら、ゆっくりと私たちは一つになった。
女が、何度目かの絶頂を迎えたあとも、なおも私は営みを止めなかった。
しだいに彼女の喘ぎ声がかすれ始める。
降り始めた雨が、ポツリポツリと車のフロントガラスを濡らすように、私の汗が彼女の胸のあたりにたまり始めた。
背すじを這い上がってくる快楽に身を委ねながら、私は彼女の膣(なか)へと、しとどに三度目の精を放った。
荒れた海でふたり、うち上げられた魚になったように、つかの間の静寂が私たちを包み込む。
汗が身体のほてりを鎮(しず)めはじめると、私は身じろぎひとつしない彼女を残して、そっとベッドを降りた。
冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出す。
キャップを開けて水を飲んだ。
冷たさが心地よい。
つぎに私は、水をひとくち含むと。
彼女のところへ戻り、舌でそっと唇を開けた。
少しずつ彼女の喉へ水を流し込む。
別の生き物のように動く彼女の喉を横目で見ながら、ゆっくりと余韻を楽しんだ。
その後、ベッドで私たちは、いつもたわいもない話をするのがお決まりだった。
最初の頃は。
彼女とデートを繰り返すうちに感じたこと。
それは、思っていたほど明るい性格ではないことだった。
特に、オフラインで逢ったときにかいま見せる、彼女の素顔。
InstagramやTwitterなどのSNSで発信している時とは真逆の貌(かお)を持っていた。
クリスマスツリーのもみの木のような無数のアームカットの痕(あと)
小学生のころ、転校先でいじめに遭い、登校拒否になり、自殺未遂を繰り返した。
鬱で仕事も長く続かない。
精神安定剤と眠剤の乱用で薬物中毒になり、家出を繰り返した。
そんな話をある時は情事の後、そして彼女を送る車の中で打ち明けられる。
午前四時。
彼女と別れ、家路へと急ぐ帰り道。
足が竦(すく)むような絶望の中に潜む、得体の知れない薄気味悪さだけが助手席に残った。
それでも私は彼女を励まそうと、逢うたびに彼女の好きなお菓子を作ってプレゼントした。
お菓子作りは私のアビリティだった。
小学四年生の頃、一人っ子だった私は、共働きで忙しかった親に気兼ねして、本の見よう見まねでお菓子を焼き始めた。
一人でずっと焼いていたお菓子作り。
プリン、ビスコッティ、ババロア、グラノーラ、ガトーショコラ、ロールケーキ、チーズケーキ、ケークサレ。
彼女の好きなお菓子研究家のレシピ本を取り寄せ、翌日のデートに向けて仕込む。
仕事終わり、ふらふらになりながら作った。
うつむきがちに微笑むのが彼女の癖だった。
せめて、お菓子を食べる間だけでも幸せでいてくれたなら。
私の祈り。
それが私のお菓子でした。